なぜ旧帝大卒は「人柄が悪い」と言われるのか?歴史に隠された3つの理由【教育】

一部で囁かれる「国立大学、特に旧帝国大学の卒業生には人柄が悪い人間が多い」という言説について、その背景にある歴史的・社会的要因を、三つの視点を交えて論考する。本稿は、特定の個人や集団の人格を断定するものではなく、あくまでそうした社会的評価が形成されるに至った歴史的背景と構造を分析するものである。

税金による教育と「特権意識」の発生

国立大学の運営費の多くは国民の税金によって賄われている。この事実は、学生に「選ばれた者」としての意識、すなわち一種の特権意識を植え付けうる構造を内包している。

明治期に大学制度が設立された当初、学費は受益者負担が構想されながらも、実質的には公費負担の側面が強かった。例えば、1877年設立の(旧)東京大学では、多くの学生が給費制度の対象となっていた。これは、国家にとって有為な人材を育成するという「育英」の思想が根底にあったためである。つまり、学生は単に一個人の利益のために学ぶのではなく、国家への奉仕を期待された存在であった。

しかし、この「国費で学ぶ」という状況は、裏を返せば、国民全体の負担の上に自らの教育が成り立っていることを意味する。この構造が、「自分たちは国民の期待を背負うエリートである」という意識、ひいては、それを知らない人々に対する優越感や、税金で学ばせてもらうことへの感謝を欠いた「特権意識」へと転化する可能性は否定できない。現代においても、国立大学の授業料をめぐる議論では、受益者負担の原則がしばしば問われており、税金を投入する意義についての国民的議論は続いている。

国家指導者養成という歴史的使命とエリート意識

旧帝国大学の設立目的そのものが、エリート意識を育む土壌であったことは歴史的事実である。1886年(明治19年)の帝国大学令によれば、帝国大学は「国家ノ須要ニ応スル」学術技芸を教授し研究する機関と定められた。これは、近代国家建設を急ぐ明治政府が、日本を先導する官僚や指導的人材を養成するための機関として帝国大学を位置づけていたことを明確に示している。

実際に、帝国大学の卒業生は文官高等試験で特典を与えられるなど、官僚への道が約束されていた。学校体系の頂点に君臨し、卒業生が政府や社会の中枢を担う「統治エリート」となることは、設立当初からの既定路線であった。

このような環境下で学ぶ学生たちが、自らを「国を動かす存在」と認識し、強いエリート意識を持つに至ったのは自然な帰結と言えるだろう。しかし、この意識は「本当に社会を支えているのは名もなき庶民である」という視点を欠落させる危険性を孕んでいた。国家や社会を俯瞰し、指導する立場にあるという自負が、一般大衆を見下すような態度として受け取られ、「人柄が悪い」という評価につながった可能性は考えられる。

旧帝国大学への入学と出身階層の限定

明治時代、皇族・華族のための教育機関として学習院が設立された。実際に、優秀な学習院高等科の卒業生が、院長の推薦により無試験で帝国大学(現在の東京大学)の法科大学や文科大学へ進学できた時期があったことは、特権階級に有利な道が存在したことを示している。

しかし、帝国大学の学生がすべて華族や貴族で占められていたわけではない。帝国大学への進学は、旧制高等学校卒業が前提であり、この旧制高校への入学自体が非常に狭き門であった。学費も当時の一般家庭にとっては高額であり、経済的な余裕がある階層でなければ進学は困難であった。

したがって、「貴族や華族」という血筋だけでなく、より広く「経済的・文化的に恵まれた階層」の子弟が帝国大学の学生の多くを占めていたと捉えるのがより正確であろう。とはいえ、一般庶民にとっては、経済的にも教育機会の面でも、帝国大学は縁遠い存在であったことは間違いない。この入学者の階層的な偏りが、卒業生集団の持つ独特の雰囲気や、庶民感覚との乖離を生み、外部から「エリート集団」として見られる一因となったことは想像に難くない。

結論

国立大学、特に旧帝国大学の卒業生が「人柄が悪い」あるいは「エリート意識が強い」と見なされることがあるとすれば、その背景には、税金によって支えられる特殊な立場国家指導者を養成するという設立当初からの使命、そして歴史的に入学者が特定の社会階層に偏っていたという事実が複雑に絡み合っている。

これらの要因が、卒業生の中に他者に対する優越感や、社会を支える人々への想像力の欠如といった形で現れることがあったのかもしれない。もちろん、これは全ての卒業生に当てはまるものではなく、あくまでステレオタイプが形成されるに至った構造的な要因の分析である。しかし、このような歴史的背景を理解することは、現代社会における大学の役割や、エリート教育のあり方を考える上で重要な示唆を与えてくれるだろう。

  1. 大学の学費と奨学金の歴史①学費の変遷【教育学】
  2. 草莽崛起ーPRIDE OF JAPAN
  3. コトバンク「帝国大学」
  4. 学習院
  5. 日本の学歴
  6. 帝国大学」から「東大」へ──出生の秘密を暴き、その虚像と実像を抉り出す!
  7. 近代国家形成期における高等教育の構想と整備
  8. 明治後半期における東京帝国大学と社会移動
  9. ウィキペディア「学習院大学」
  10. 学習院大学の歴史
  11. ウィキペディア「帝国大学」

 

投稿者プロフィール

圓寂の元祖裏アキレス
This text discusses methods and perspectives on living authentically by avoiding irresponsible power structures. It aims to provide readers with an opportunity to reflect on their individual lives.

無責任な権力組織を回避して、自分らしく生きる方法や考え方を記しています。読者の皆様個々人の人生について、振り返っていただける時間を提供できれば幸いです。小学生時代は学級新聞係、高校生時代は図書委員の広報班長という経緯もあって、人生にとって有益なジャンルを新聞形式でお伝えできればと思っております。
Subscribe
Notify of
guest
0 Comments
Oldest
Newest Most Voted
Inline Feedbacks
View all comments
PAGE TOP